私は33年間いくつかの外資系ICT企業の片隅で、開発エンジニア、ソリューション・アーキテクト、ビジネス開発マネージャとして働いてきました。ここ数年は企業現場の皆様との討議を通じてDX(IT、ICT、IoTとバズワードとその解釈は微妙に違いますが、大勢に影響はありません)の意味と意義とICTによる実装を紹介しています。
今回は「中小企業におけるDXについて思うこと」をお話させていただきます。
日本におけるDXの実施概況
21世紀に入りインターネットの普及とともに、ICTは大きく進歩しました。しかし、日本の大企業の経営者は、業績が見通せなくなったとの理由から社内留保に走られ、ICTの導入をはじめとした新しい技術を使った設備投資には後ろ向きだったと感じます。
これに対して海外の企業経営者はICTの活用を先行投資と理解し、その導入と活用を推進されてきました。これが、両者の間で技術面と収益面で大きく差が開いた原因の1つであることは否めません。
21世紀も20年を経過したいま、ようやく日本の一部の大企業ではICTの意味と意義を理解され、DXの実施を決断し、業務仕分けのプロセスが終わり、実装に向けた試行錯誤(これはムダではなく、とても重要で必要なこと)が重ねられています。すでに一部の先進的な企業では専門組織を立ち上げ、若手から熟練者まで巻き込んで、会社全体に渡りの高度なICTの活用が始まっています。そこではクラウドとともに、現場に設置されたエッジコンピュータやパソコン、スマホがそれぞれに適した役割を担ってDXのシステムとして実装されています。大企業が「DX推進のお手本」になることは間違いない事実であり、多くの企業が注目しています。
中小企業では、どうでしょう?日本の企業の70%は中小企業で、現状では労働者の60%が中小企業に勤められているといわれています。特に40年以上の歴史がある中小企業の経営者の皆様は、DXについての動向には興味があり総論賛成ではあるものの、いざ自分のところでとなると各論反対、いまのやりかたを変えたくない、変えるリスクを負いたくない・・・反対ではないが予算も人もいないので、やりたくてもできない・・・もっと一般化してコストが下がるまで様子を見たいという状況がほとんどかもしれません。
中小企業は大企業と比較して、業務範囲が限られています。経営者がその全てを見渡せることができ、DXを実施決断すれば、むしろ、実装運用に至るまでの期間は大企業よりも短くて済むはずなのですが・・・多くの中小企業は「うちはまだいいや。やらなくても。だって大企業でも、まだまだでしょ?」ということで、いまだにFAXで注文を受け、ノートに鉛筆で機械の動きを記録し、手で商品の数を勘定し、これを画面から入力し、伝票として印刷し、ハンコを押す・・・多くの雑務に時間を費やされているのではないでしょうか。
若年労働者の動向
日本は人口減少が今後加速することは明らかで、若年労働者数は限られた貴重な資源です。彼らは小さな頃からゲーム、スマホ、アプリを使いこなし、Webサイトからニュースを知り、SNSで友達とつながり、チャットで会話し、コンビニでスマホ決済し、ネットサイトで買い物をし、宿やレストランを予約し、漫画をスマホで読み、音楽もスマホとBluetoothイヤフォンで聴く、いわばICTの申し子です。そんな若い世代が、もし会社においてFAXで注文を受け、ノートに鉛筆で機械の動きを記録し、手で商品の数を勘定し、伝票にハンコを押すことに忙殺され、低い賃金で夜遅くまで働いているとすれば・・・疑問を持つ・・・というか我慢できなくなることは明らかです。
「なぜ、ウチの会社はこれを手作業でやっているの?おかしくない?」と。そんな彼らに「黙って働け」といっても納得するはずがなく、このままでは、歴史ある中小企業に入社したとしても、定着する若い労働者の割合は大きく減少するでしょう。若い世代から見てスマートで魅力的な企業に変わらなければ、たとえ業績が良くても人材が集まらなくなり、やがて廃業せざるを得なくなってしまいます。
企業経営者や幹部はICTの活用を敬遠せず、第一に手作業でおこなう必要がない付帯的業務に対してDXを実施し、本業に集中できる環境を整えることが必要です。これにより本来作業や製品設計の精度と生産効率、品質と機能、使いやすさを高め、製品を知ってもらう、ブランドを確立し、有利な条件で買ってもらうという大切な仕事に人的資源を集中することができます。これまで以上の価格でサービスや製品を提供しても、顧客に歓迎されるようにすることで、社員に少しでも高い給料で報い、安定した質の高い生活をしてもらうことが何よりも大切なはずですが・・・。
CIO補佐 デジタル推進担当
築瀨 猛